「足の外科」③で最後に
「幅が細い人の足には、ヒールを履いていなくてもハイアーチ傾向が見受けられる」
を書いた続きです。

本題に入る前にまず、用語の整理です。
紳士靴完全バイブル
「紳士靴完全バイブル」のページより。
大好きなナツメ出版の書籍なのですが、出版社サイトにはこの画像はなく、Amazonに掲載されているものを拝借しました。

紳士靴完全バイブル
今年の春発売。

わたしの痛む甲部分は、ウエストガースのトップです。
ウエストガースは、足のウエストにあたる部分。
腰の止まりが悪いとパンツがズルズル下がっていくのと同じで、ウエストの締まりは重要。
一の甲二の甲三の甲という日本独自表記は書きません。

アーチ高は、舟状骨(しゅうじょうこつ)が地面からどれだけ離れているかで見ます。
naviculareという英語表記の方が、骨の意味が感覚的に伝わる。
舟状骨の位置から「右足はハイアーチ気味」と初めて指摘されたのは、2015年でした。
それまではたんにウエストガース高いなという認識だったのが、

「アーチが上がっている→だからウエストガースも高い」

に切り替わった瞬間です。
ただ、高い低いの基準数値が不明。
恐らく足長に対してなんぼみたいなんがあるはず。

ありました。

そしてどこかで見かけた、
「合わない靴を履いて足が前すべりした状態が長いと、踏ん張りによって甲が上がったまま固まってしまう。 幅が細い人の足には、ヒールを履いていなくてもハイアーチ傾向が見受けられる」
という説です。
一見、納得がいく推測です。
土踏まず
でもなんで、右足だけ?

あくまでハイアーチ“傾向”であり、ハイアーチではありません。
足の外側ちゃんと接地してますので。
そしてこの推測、実証のしようがない。
遺伝的にハイアーチの要素がなく、踵や幅、靱帯、趾が長い短いなど、一般の既製靴が合わない人、なおかつヒールを日常的に履いていない人を集め年数をかけて追いかける必要があり、足の厄介なのはずっと後に影響が出てくるところ。

●日本人の足は変形しやすい

自分の中で保留になっていたアーチ高について、足の外科を受診して分かったこと。
そして9月に出たばかりの「究極の歩き方」が、たくさん閃きをくれました。


究極の歩き方 (講談社現代新書)
日本人だけでなく欧米人の足計測もしている、アシックススポーツ工学研究所のまとめ。
おもしろいデータが載っています。

P52に日本人の「幅広甲高」は間違っているとし、「足高」=甲の厚みは踵から55%の位置の地面から甲までの距離を測っています。
イギリス人アメリカ人と比べて、日本人は「足甲」が低い「幅広甲低」である。

続きに足の左右差のデータがあり、左の方がわずかに長い人の方が多い。そして右足の方が足囲(ボールガース)が太い。
アーチ高は左の方が低く、右の方が高い。
このような左右差は、「支持足」と「機能足」が要因ではないかと推測されています。

いま左右差がなくても、50歳を境にして左右差のあるひとが増え、また左右差の数値も拡大していきます。
この本には「50歳の境目」(男女ともに)でなにが起き、どう変わって影響が出るのかに触れて、それを元にアシックスでは高年齢層と若年齢層のシューズ設計を変えていくのが載っています。

くり返し出てくるのは、
「日本人の足はデリケート」
「欧米人より足の悩みが深い」
「欧米人よりアーチ剛性が低い」
「足が変形しやすい」
そして、「欧米では理解されにくい」

これまで靴作りや売り場でバラバラになんとなく経験則で言われていたことが、がっつりデータでもって明らかになったのは、素晴らしいことだと思います。

●「足の声」を聞く


タイトルに戻ります。
「幅が細い人の足には、ヒールを履いていなくてもハイアーチ傾向が見受けられる」説は、「幅が細い人」というより、「日本人」というくくりの方が現実的だと思いました。
アシックスの計測サンプルは、足に合った靴を履いてきた人、そうでない人、日常的にスポーツをしている人、そうでない人など種々混じっていると思います。
その上での結果ですから。

あしくつに悩みがあるひとは、自分の足をよく観察しています。
悩みがないひとは、自分の足について知らないから声を上げることがない。
本が売れないと言われている現在、まとまったデータによって「足の声」をすくい上げ、形としてくれたことは本当にありがたい。

アシックスは歩人館時代、幅の細い足に対するフィッティングで評判が悪かったです。
そのせいか、書籍にはそういう足を見捨てていませんという心意気も書かれていました。

究極の歩き方 (講談社現代新書)
講談社現代新書を普段から扱っている書店なら、まだ店頭にあるはず。

そして最後に、わたしがタルタルガで靴を買ったのは2010年11月のことでした。
9年です。
あの当時に比べたら、あしくつを取り巻く環境はずいぶん変わりました。
なにより社会の価値観の変動のスピードです。めちゃくちゃ早いわ。
だからいまできないこと、解決できていないことがあっても、絶望する必要はない。
わたしは9年前よりいまの方がずっと幸せです。

と締めるとまるでこれが最終回のようですが、そんな事はないです。
ここに書いていないだけで、ずっと靴探しは続けていますし。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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