これが…
最初はすごく面白くて付箋じゃんじゃん貼っていたのに、途中から失速です。
中盤以降は意識して読み進めないと、完読できなかった。
これが評判の養老作品？
わたしすっごい期待はずれだったので、もう日記にも書くの止めようかと思いましたが、一ヶ月ほど経ってなんとなく期待はずれと感じた正体に気がつきました。

この本でおもしろかったのは、「意識は自分をえこひいきする」という流れ。
口の中にあるツバは汚くないのに、なぜ外に吐き出したツバは汚く感じるのかから始まって、客観的な意識を持つことの大事さを知ります。
そして「自己の確立」や「個性の発揮」なんかは、そうたいしたものではない。そう考える方が自然だ、と。

日米の学生意識の差も、よくネタになります。
日本人は自己主張がないのに対し、アメリカ人はズラズラ主張がリスト化されている。
それが正しいか正しくないかではなく、生物学的に見ても「自分」は地図の中の矢印でしかない。
さらに、「個性を伸ばせ」「自己を確立せよ」という教育は、若い人にずいぶん無理を強いてきたのではないか。
身の丈に合わないことを強制しているから、いい結果が出ないのは当たり前。
それより、世間と折り合うことの大切さを伝える方が大事なのでは、とあります。

この内容、こんだけ個性的な著者が発しているのが、ポイントではないかと思います。

あとおもしろかったのは、日本人は欧米人と比べると世間の中で「自分」を出さずに従っているのに対し、頭の中の自由度が相当なもの。
世界のインターネットの書き込みの70％が日本語だそうです。
どうやって調べたの？？
「頭の中が好き勝手」なのが日本人の普通なので、日本ではわざわざ「思想の自由」は声高に口にのりません。
日本人の思想の特徴は、「実害ないだろう」ということを平気で言えること。
これもまた、欧米に対して日本の方がいいという意味ではないと重ねて書かれています。

この「だからといって、これがいいという意味ではない」という文章は、著作の中で頻繁に出てくるんですよ。
またですか、またですかと少々うんざりしたのですが、もしかして、著者がこういう発言をこれまでしてきたときに、そういう返しが多かったからかなと思いました。
著者もうんざりしていたのでしょうね。

わたしが面白く感じた付箋箇所は、第一章第二章ばかり。
これ以降、一箇所しか貼っていません。
なんだか話題があちこち飛んでしまい、結局「自分の壁」はどこに行ったの？？　と思いながらページを繰り続けていたら、読了となったのです。
なんてこったと再読し始めたのも途中まで。
わたし、一度読んだ本はほとんど再読できない。

期待したような閃きは、何らありませんでした。
しかし、これこそが答えなのかもと思ったのです。
一般的に個性的といわれる著者の着地点がこれならば、そらーわたしが腑に落ちるような答えは、どこ探したってないんだろうなと。
つまりは、そういうことなんだなと、またもや同じ答えを得ることになりました。

あと、図書館の本じゃないのでいつものように表紙をはぐって読んでいたのですが、新潮新書のカバー下のデザイン、いいですね。
ロゼッタストーンやパピルスの文字と中国古典の漢字など、文字がたくさん。
解説がちゃんとありました。
http://www.shinchosha.co.jp/shinsho/about/
「カバーを外すと、新潮社本館ロビーの壁面彫刻「人類の文字」が現れます。」
新潮社の手提げ袋もこのデザインだそうで、ブクラーかつ文字好きとしては、是非一枚いただきたいです。