つものまちライブラリー大木塾です。
テーマ「足と靴のサイズ」は一回でおさまらず、4月と6月の二回に分けられました。
2月の第六回はこちら、バックナンバー等はタグ「シューフィッターと語ろう」から行けます。

第一回概要

4月の回ではたくさんの表でいろいろな数字を読み解いたのですが、フランス人成人男子500人の平均値グラフが興味深く、日本人の方が足は短く太く、しかし踵はフランス人より小さいということが数値からもわかりました。
日本人は逆三角形のあしをしていて、踵がぎゅっと締まっているということです。

ヨーロッパのブランドに靴をオーダーメイドした体験記などよく読むのですが、このあしのかたちどおりに作ると、わりと不格好なずんぐりした靴が仕上がります。
ご本人は「自分の足の形が悪い」とショックを受けていましたが、もともと骨格が違うので、そらイメージしているモノと別物が仕上がって然るべきなのです。

そしてつま先デザインにこだわる心理として、髪の毛は自分では見えないけれど、つま先は常に見ることができるから。
当たり前のことですが、末端って意外と視界に入りますね。
ちょっとした変化が、自分で思っている以上にすごく目につきます。
動作の大きい男性ならなおことです。

第二回 ヒールカーブについて

約50%のひとは既製靴のサイズが合う恵まれたひとです。
参加者の中にこの恵まれた方がいて、実に羨ましい!!
しかしサイズには恵まれていても、踵のカーブは既製靴に果たして合っているのか。
大木さんお手製のヒールカーブスケール登場です。
ヒールカーブスケール
これは、踵に垂直に当てます。
ヒールカーブ木型ヒールカーブ
木型は男性の靴で、右のあしはわたしがモデルです。
いずれも8mm、平均的なヒールカーブ。
しかし凹みが弱い4mm以下だとバックベルトのサンダルがずり落ちてスリッパ状態となります。
全体の約2割がこのタイプ。
わたしはヒールカーブは平均だけど踵が小さいので、バックベルトはずり落ちます。

甲高の足だとヒールカーブは浅くなります。
前後から足がぐっと締まって甲が高くなる分、踵骨が立つから。
逆に甲が薄いと前後に足が広がり、踵骨が後ろにぐっと出るため、ヒールカーブが深くなるそうです。
つまり、甲高の既製靴は踵が浅くつくられているということになります。
カーブが深いひとは、踵がすぽすぽ抜けてしまいます。
パンプスの場合はヒールが高くなるとヒールカーブも立ってきて、ペタ靴に比べてあおり歩行で蹴り出さないため、カーブ浅めとなります。

ヒールカーブは、売り場にサイズ明記はもちろんありません。
垂直のカーブに対し、地面に対して平行なカウンター(月型芯)によって踵をしっかりホールドする靴だとすぽすぽ抜けることはぐっと減るのですが、ちゃんとしたカウンターが入っている靴は少ないですね…

サイズの波

足囲と足長の年齢別変化の表を見ていたとき、おもしろい話を聞きました。
イギリス人の足幅は年々細くなってきていたのが、細止まりしたというのです。
そこからまた、広がっていくのだろうと。
あしの幅には細くなるとき、広くなるときと波があるという!!

びっくりしたのですが、先日いつもの「甲低幅狭シューズ探訪記」さんにて読んだ記事の内容をすぐに思い出しました。

・日本人の足が甲低幅狭化しているのは、退化か退歩か。
http://ameblo.jp/sunjarat/entry-11878649013.html
ブログタイトルに使われている二足 三足(!!)のあしの比較写真が秀逸すぎる。

「単に甲低幅狭なだけの足は、進化か退化かをしているのであって、
 決して退歩しているとは限らないはずです!」


このサンさまの推測が裏付けられたように思いました。
となると、どの時代であっても常に既存の靴が合わない人が一定数出るという事になります。
ただ、ある程度それを重ねてくればデータが揃います。
その時に、靴に対する考え方がいまのような大量工業製品の商業ベースではなくなっていれば、と思いました。

オーダーメイドは解決にならない

わたしもよく聞かれるのですが、売ってる靴が合わないならオーダーメイドすればいいんじゃないかと。
オーダーしたら、ピッタリのシンデレラシューズが手に入る。
一般的にはオーダーに対してそのような信仰じみがものがあると思います。
以前オーダーを考えたときに、ほんとに100%満足できるものなのか調べてみたら、そうではなかったのでやめたという経緯があります。
何十万もかけて作っても満足できないのはなぜか。
大人木型02
木型。甲の部分はパーツがわかれるようになっています。

今回の資料で一日のあしのサイズの変化、そして年間の変化の表がありました。
被験者が55歳と71歳というのは少々物足りませんが、ふつうに変動しまくっています。
夏季は冬に比べて足が膨張していて、放熱のため末梢血管が拡張を起こしていると見受けられる。
当然同じ靴だと冬の方がサイズが大きく感じられます。
しかし、自分で日々刻々の差は自覚できません。
靴はサイズだけではなく体調でも左右します。
行きつけのお店(担当さん)から靴選びをする方がいいのは、この点もあるのです。

一日の間、年間を通してもサイズが変わる足。
そんな足にぴったり合う靴の方が難しいのは一目瞭然です。
あと、数値上はピッタリのものができていても、本人が「合わない」と感じればアウト。
理論と感覚は別物です。
そしてなにより、ほんとにあしにあったオーダーメイドの靴を作れていた時代は、職人の腕が違い、使っている革の質ももっともっと上等でした。
さらに足元の環境も今と違いアスファルトではありません。
履いている日本人の下半身も頑強で、靴に負けず履き慣らすことができたのです。
なにもかも条件が違う今、あしに合ったオーダーメイド靴が作れないのもわかります。
あれはもう遠い神話なのだと、頭を切り換える必要があります。
大人木型01
いまはプラスチックの木型が多いのですが、革との相性は同じ“いきもの同士”である木の方が革を伸ばすのに馴染みがいいそうです。

目的は同じはずなのに

参加者の方からの素朴な疑問です。
「じゃあ、大木さんに一緒に靴売り場に行ってもらって
選んでもらうのがいちばんいいのでは?」
わかるー! わたしもそう思いました!!
ところが、大木さんは現在売り場には立たれていません。

売り場に並んでいる靴のブランドは知っていても、その靴が踵が抜けやすいとか、しっかりしているといった一足一足の特徴は、実際に試着した方との日々のやりとりによる蓄積です。
だから売り場に立っていないと、『靴がわからない』という状態に等しく、選ぶことができない。

シューフィッターは自分のホームグラウンドでその実力を発揮できても、
売り場が変わるとそうとは限らないということです。
これが、被服と靴のフィッティングの全く違うところで、現在のところ
「靴選びは販売員選び」
という帰着点は揺るがないのです。
大人と子供の木型
この手前の小さな木型は、こども靴の木型です。
途中で折れて、仕上がった靴から抜きやすくなります。
参加者のお子さんが、机の上にあったこの木型が気に入ったようで、車のように動かして遊んでいました。
こどもとくるま
 これは赤ん坊素材ですが、イメージこんな風で

その時は『かわいいなあ〜〜』なんてニコニコ見ていたのです。
こどもってなんでも遊ぶ道具にできちゃう、発想力がすごいな、なんて。
しかし、帰宅して資料を整理していたとき、ふと気がついたのです。
おんなじだわ!!
車と靴、どちらも中のひとを守って目的地に運ぶ道具です。
ただ、シンプルな目的の道具なのに、なんでこんなに難しいのか。
もっとシンプルにいけたらいいのにと、つくづく思いました。

このように、靴に特に悩みがなくても好奇心のある方や、お子さんのちょっとしたことでも、ほんとに閃くことが多い勉強会です。
いつも素敵な場を提供していただき、ありがたいことです。

このあと、大木さんにくっついてあるお店に行きました。続きます