本では2014年5月発行、アメリカでは2012年6月発行の本、著者はこの時点で30代前半かな?

本書のWEBサイトはこちらで、原タイトルはずいぶん違いますし、
http://overdressedthebook.com/
OVERDRESSED: THE SHOCKINGLY HIGH COST OF CHEAP
OVERDRESSED: THE SHOCKINGLY HIGH COST OF CHEAP
表紙はなんとハイヒールです。
著者自身あとがき冒頭に、「この本はファストファッションについての本ではない」と書いてあるにも関わらずこのようなタイトルをつけられて、エージェントはどんなやりとりをしたのか。

FOREVER21やGAP、オールドネイビーをみていてつくづくアメリカ人の服ってぺらぺらやなと思っていたのですが、ぺらぺらに至る繊維業の経緯がよくわかります。
それと大衆の意識の変化も。
「ある店で、魅力的なドレスやシャツが30ドルで売られていたとする。それより少し品質が良いだけの似たような服が、別の店では100ドルだったとすると、消費者は不当な金額を支払わされていると思ってしまう。高い店の方が大型店より商品の数が少なく、サービスが良く、経費が余計にかかっているとしても、買い手はそこまでは考えない。こうして常に値段を比較されるせいで、小売店はありとあらゆる手段で値引きをせざるを得なくなるのである。」
本文P40、リサ・ボルトン教授の言葉。

不当な金額を支払わされている、これって被害者意識ですね。
高級ブランドのコピーをした格安の類似品が国内どこでも手に入るようになると、そら品質が良いんですよと言われても、使い捨て感覚で安い方が選ばれるでしょう。
アメリカは繊維業の国でしたが、一気に衰退していくさまが恐ろしかったです。
でもそういった価格競争がなにを生んだのか、著者は丹念に調べていきますが、わたしが興味を持ったのはそこではない。
高級ファッションと格安ファッションの関係です。
「素材や使用には全く変更がないにもかかわらず、マノロブラニクの靴はいまでは一足800ドル近い。(中略)セックスアンドザシティの影響で同世代の女性が高級ブランド服の虜になった」
特に高級ブランドの革製品バッグと靴のうち、バッグについてはえげつないほど原価が安いのに売値はめちゃくちゃです。
なぜありがたがって買うのか。身につけるものが自己顕示欲、自己表現に繋がるから。

わたしがデ研を卒業して一年目、冬のボーナスでヴィトンのバッグを一式買ったという同級生がいました。
学生の時、ヴィヴィアン・ウエストウッドが好きだった彼女からヴィトンのことなんて全く聞いたことがなかったので驚いて、
「なんで買ったの?」
「欲しかったから」
そして使わず家に置いている。持ち歩いているのを見たことない。
この時初めて、ブランドだから買うっていう行動があるんだと体験したのです。

著者もそうですが衣服の価格低下が超スピードになって一週間に一枚服を買う、同じ服を二度着ない、新品のタグがついたまま家に服が折り重なり、クローゼットからはみ出してリビングを侵食している人がものすごく多くなった。
よって、アメリカの家の間取りはクローゼットがどんどん面積が大きくなり、収納が昔サイズの家だとシェアもしてくれないという。イヤ待て、服減らそうよ。

わたしは新品のタグがついたままの服を放置したことはありません。あのタグをとるのが楽しいんじゃないの?
彼女たちはハイブランドのコピー商品がじゃんじゃん店頭に並ぶファストファッションの提案に、唯々諾々と流されています。
なんで見に行くのかな、手持ちの服をなぜ見直さないのか。

アメリカ人って我が我がなのに、コピーでもブランド品を身につけたいという、ブランド戦略にすごい弱いですね。そこは個人主義よりも自己顕示欲が全面に出るんだ。変なの。
コピーで安心する心理は日本人ならともかく、個人主義のはずのアメリカ人の、なんか歪んだものを感じるのです。この欲望はファッションヴィクティムとは別。

著者は毎年冬になると50ドル程度ので新しいブーツを買います。(収入から見ると大きな買い物)。しかしシーズンの終わりには例外なくダメになる。粗悪な革は劣化著しく、プラスチックのヒールが斜めにすり減る。

アメリカ靴修理協会の会長に、そんな値段の商品ではきちんとした縫製はできない。耐久性のある靴が作れるはずがないと指摘されています。
プラスチックのヒールは修理不可能なので、そのような靴は消耗品だと。

中国の縫製工場に、架空のアパレル会社の企画担当者として乗り込むところはおもしろかったです。
どこに行っても英語が通じると思っている、アメリカ人独特の傲慢さには失笑しました。
工場に対して発注している立場であるアメリカ人の話す言語なら、当然通じるだろう、中国に行っても苦労しないだろうと思っているんですよ。わーお。

そして中国の工場が予想していたよりもずっと環境がよくて驚いてもいました。きちんと品質にこだわる工場もちゃんとある。
中国製品の縫製はそんなに悪くないんです、しかし生地の質はものすごく悪い。見る人が見ると、中国製、インドネシア製って見破られる。
著者はその後縫製に目覚めて衣服に対する意識が変わります。


世界の工場のカラクリなんかはだいたい知っていますが、アメリカの繊維工業の歴史はおもしろかったですね。
それとやはり格安価格に慣れた人の意識がどのように世界に影響を与えるのかという部分、ここは単純に製造だけ見ていると見過ごしてしまう分で、この本は前半が特におもしろかったです。

まさにこのタイミングで、FOREVER21がさらに激安業態を出すというプレスが流れてきました。
■1着210円? 「フォーエバー21」が激安業態出店攻勢
https://www.wwdjapan.com/407057
「今年、多くの皆さんに新ショップをご覧いただけることに興奮している。過去3年で若い女性のみならず、彼女たちのご両親、そして子どもたちの頭からつま先までを彩るアイテムをそろえてきた。お客さまは、『F21 レッド』の商品を使い捨て感覚で着るワケではない。彼らはシーズンを通して『F21 レッド』の商品を着続けるし、我々もトレンドを加味しながらも、そんな洋服を提供している」

よく言うわ(笑) 
使い捨てしかできない程度の服を膨大に排出して、超絶薄利多売を狙っているだけでしょうに。
キャミソールが1ドル90セント(約210円)、原価1円したらいい方でしょう。
ティッシュペーパー並みの薄さでしょうね。
そんな服ばっかり着ていたら、他人からもティッシュペーパー並みの軽さで扱われそう。