ンションの敷地内で、野良猫にえさをやっているところに遭遇しました。シリーズ第四回です。
第一回:きっかけ
第二回:手がかり
第三回:見てしまった


1.この場を去って、管理人さんに部屋号数を伝える
2.見なかった振りをして立ち去る
3.おばあちゃんが去ってから、えさを回収処分する
4.おばあちゃんに事情を聞いてみる

どうしようかと逡巡していたのですが、猫は他人の気配に敏感でわたしを見ると飛びついていたえさからさっと距離を取ります。
「どうしたん? ごはんやで」
おばあちゃん、わたしに気づかず新たなえさ皿を出す。
遠巻きにえさを見る猫たちの様子から、ようやくおばあちゃんもなにかおかしいと感じたみたいで、振り返ってわたしを認識したのです。

4.おばあちゃんに事情を聞いてみる


おばあちゃんがどんな方なのか、全くわかりません。
なんて声を掛けよう。

「その猫、おばあちゃんが飼ってらっしゃるんですか?」
これが限界!!

おばあちゃんは地獄の獄卒を見たような顔をしていました。
脅かす気はなかったんですが、足音もなく(だって先回りしていたから)現れたでっかい女に誰何されて驚いたことでしょう。
おばあちゃんは、
「なにか、噛みつかれたりしましたか?」
とすごくおどおどして、飼っているのかという質問には答えなかった。
そらそうですよね、わかっていて訊いたんです。
以下、おばあちゃんとのやりとりを要約しました。長い。

●目的は一つだけ


ここに来る猫は人を見るとすぐ逃げるから、悪さしません。
うん、そうですね。でもおばあちゃん、ゴミ置き場の生ゴミの周りに猫が集まっているんです。
この子達じゃなく、それは別の猫がやったんです。
そうですね。おばあちゃんにはそれがわかるんですね。残念ですが、知らない人にはそんなことわからないんですよ。
なにかあったときに、ここに集まっている猫が悪さしてるってことになるんです。おばあちゃんも、それは悲しいでしょう。

保健所に言ってもなにもしてくれないんですよ。
そうですね。野良猫の保護は保健所のお仕事じゃないからです。
(おばあちゃんは保健所に保護された猫であっても、期限が来たら殺傷処分されることをおそらく知らない)

誰か飼ってくれる人がいないか、探そうとしたんです。うちでも一匹引き取ったんです。
そうですか、一匹だけでも保護されて、面倒みられているんですね。
(どひー。マンションはペット禁でーす!! 自治会で問題になったとき、おばあちゃんにはマイナスポイントしかありません!)
子猫
3匹ここで生まれて、母親がいなくなって、こんなちっちゃい(↑手の平サイズイメージ画)時にほっておけなかったんです。すごくかわいかったんです。
誰もいなくて死んじゃうと思って。
最初は二人でえさやっていたけど、一人の人は『もう止める』って止めて、あのとき一緒に止めたらよかったんですが、可哀想で止められなかったんです……

うん、おばあちゃん一人でも続けたんですね、優しいですね。
わたしは野良猫にえさをやるのは優しさだとは思いません。でも、その気持ちはわかる。共感するという意味で言いました。

優しくないんです。止められなかったんです。
ちょっとまえから、ここがきれいになってるから、誰かに見られているんだなと思っていました。
時々ここで誰かを見かけることもあったし。
(それ多分わたしじゃない)

おばあちゃん、その通りです。
管理人さんもご存じだし、実はもうマンション内で問題になっているんです。
雨の日に野良猫が共用廊下に上がり込んでおばあちゃんの家の前で雨宿りしている光景は、尋常じゃない。
それで気がついたし、おそらく一年以上続けていたはずだから、わたしが一ヶ月弱で突き止めたんだもの、他にもわかっている人がいるでしょう。

今日わたしが気がついたのは、なにもない場所なのに猫が集まりだしたからなんです。
おかしいなと思って様子を見ていたら、おばあちゃんがえさを持ってきたんです。
この子達はもう、おばあちゃんが来る時間も把握して集まってきているんですよ。
えさをもらえるもんだとわかってきているんです。

おばあちゃん、ハッとした顔。

おばあちゃん、猫は自由です。
えさをあげないと可哀想とか、誰かにもらってもらおうとか、人間の傲慢です。
町内に野良猫たくさんいますが、自由に生きています。(わが地元はわりと残念タウン)
この子達はおばあちゃんのえさに縛られて、自由じゃないんです。
もう解放してあげましょう、自分で生きていけますよ。

そして、おばあちゃんも今日で止めましょう。
ここは歩道から丸見えです。
猫が集まっているのを見て、子供さんが入ってきたとき、怪我でもしたらその責任はおばあちゃんがとるんじゃないんです。
マンションの敷地内でえさをあげているから、マンション全体の責任になるんです。
おばあちゃんが”自分のせいです”、では済まないんです。

3月でやめようと思っていました。
うん、もう3月だから止めましょうね。
寒い間は可哀想だから、もうちょっと暖かくなるまで3月まで続けさせて欲しいんです。
おばあちゃん、もう暖かいですよ。お花も咲いてきました。今日で止めましょう。
わたしと約束して下さい。
おばあちゃんが今日で止めてくれたら、わたし管理人さんには言いません。今日のことは黙っています。

おばあちゃんは足が弱っている中、足場の悪いエサ場まで雨の日は傘をつえ代わりに通い続けていたそうです。
照明もないのによくまあ……

今日で止めます。でも今晩のえさは準備したので、これだけ最後にあげさせて下さい。
えっ今晩!?
なんと夜にも二度目のえさをあげていたんです。

わかりました、おばあちゃんを信じますね。今夜の分で終わりにしましょうね。
手
このやりとりをしている間、決して責めるつもりはなかったのでおばあちゃんの手を軽く握りながら話していたんです。
途中からおばあちゃんは涙を流しながら、
「止めなあかん、止めなあかんってずっと考えていたんです。ずっとずっと。もうずっと前から。でも、誰かにこうやって止められないと、止められなかったです」
ずっと悔いておられた。

3月まで続けると言っていたのが、この日で最後というのを決められただけでもいいと思ったので、管理人さんに言うことはせずに去ることにしました。

今回はおばあちゃんが罪悪感を抱えながらされていたため、話ができる方でした。
管理人さんよりも同じ女性の方がいいかなと思って、思い切って声かけてみたんです。
でも、逆に居直る人や激高する人もいると思います。
おじいちゃんだった場合、同じことができたかわかりません。
一方的に正義の力で圧をかけると、同じ力で反発されます。それでは話し合いにならない。
交渉ごとは相手のしていることを否定しないところからスタートすること、事情をよく聞くことが大事だと思います。

後日エサ場を通りかかったとき、猫が集まってきていました。
でもエサ場は空き皿もなく綺麗になっていました。
おばあちゃん、約束守ってくれたんですね、ありがとうございます。

わたしの目的は野良猫の保護でもなく、管理人さんに突き出すことでもありません。
敷地内でえさをあげるのを止めてもらえたら。でした。
目的によって相手の事情によって手順もゴールも変わるでしょうから、一例としてまとめました。