表紙のイラストがとてもかわいらしい、復刻文庫版です。

1977年に集英社文庫から出ているので、内容は現代と多少ズレがありますが、愛すること、信じること、嫉妬、そして“大人”の姿がここに書かれています。

もともとは昨年の誕生日月にhontoから500円クーポンが届き、500円内で買える遠藤周作文庫本の候補でした。
あのときは手紙の書き方である「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」を購入しています。 (感想日記
今年はhontoからクーポンが来なくて残念に思っていたら、図書館にまんまと入っていたのでいそいそ借りてきました。
あちこちふせんだらけです。
他の遠藤周作著作感想は、タグ「遠藤周作」からいけます。

内容紹介
愛に悩む人必読、含蓄とユーモアの愛情論
人はなぜ人を愛そうとするのか? かけがえのない愛を持続させるために大切なこととは? 嫉妬との上手な付き合い方、性の問題、失恋の特効薬など、含蓄とユーモアに満ちた恋愛論。


情熱と愛はちがう

現代において女とたくさん寝ることは易しい。
青春の論理としてむつかしい行為を選ばねばならぬ。むつかしい行為とはなにか。それはこの地上でたった一人の女を選び、その女を愛するように努力 することである。ひとりの女を選んだならば、それを生涯、棄てぬことである。これはやさしいことではない。やさしいことではないから、青春にいる諸君は やってみるべきではないか。

現代、こんなことを考えて、たった一人の女性を選び結婚している人がいるのだろうか。
真っ先にそう思いました。
わたしはこれまでいろんな結婚式に出てきましたが、式場では女性はとても晴れやかで肝が据わった顔つきだけど、男性はどこか他人事の顔つきをしています。
これは結婚式が女性のものだからではなく、男性という生き物の質みたいですね。
うまい具合に後半の「ぼくの愛情診断」内に、わたしの疑問についての解答にあたる文章があるのです。
P135から。
この「ぼくの愛情診断」に書かれている著者の夫婦喧嘩の様子もすごくて思わずクククとなります。でも、こういうケンカができるのって羨ましい。

「不安は情熱を燃えあがらせ、安定は情熱を殺す」

これはマルセル・プルーストの言葉です。
これを引用し、結婚生活には情熱など存在しない。しないのではなく、しえないのだときっぱり言い切っています。
なぜなら、安定しきった状態だから。
安定と情熱は同時に存在しないのだと。
それが結婚生活なのだ、と。

わたしは読み始めて、この書籍は結婚する前の若い男女だけでなく、現在結婚中の男女も読んだ方がいいと思いました。
これだけ情報があるのに、結婚後の状態についてこれほど的確に、でも「悲嘆さ」なく書いてくれているテキストはそうそうないと思うのです。
曰く「結婚は人生の墓場だ」など、ネガティブな表現ばかり目につくけれど、そうではないのだと。

情熱と愛についての説明は学者らしい反面、目の前で著者が笑みを浮かべながらいたずらっぽい表情で言っている様子がイメージできます。いつもながらこの情景が浮かぶ文章は、ほんとにすごい。

愛すること信ずること

 君たち、若い世代は不信の時代に生きている。おそらく、日常生活で君は人を信じられぬという経験を毎日やっているだろう。教師も信じられぬ。学校も信じられぬ。上の世代も信じられぬ。まして政治も信じられぬし、偽善的モラルも信じられないであろう。
 その時、君は恋愛をする。恋愛とは先にも述べたように相手を信ずることであり、相手から信じられることである。
 不信の時代に君は恋愛を通して「人間を信ずる」行為をやろうとしているのだ。「人間は信じられるか」という賭けを自他ともにやろうとしているのだ。

愛とは選択ではなく決意と持続だと著者は繰り返しといています。
信じるということを、こんな風に考えたことがなかったわたしは、果たしてこれまでの人生でこのような思いで誰かを信じたことがあっただろうか、そして裏切られたことはあっただろうか。
裏切られたときに、信じるということに直面するからです。
裏切られるというのは、恋、愛に破れたとき。
自分のこともですが、周りの人のことも考えました。

恋愛や結婚においても、「結婚相手にいいポイントは○○」的なお手軽ライフハック記事が多いですが、恋愛ってそんなテクニカルなものじゃない。あの手の記事は流し読みの気軽さがありますが、なんら心に残りません。
もっと心にストンと落ちるものが必要だと、そして、なにかの時に相棒となる書籍なのだと思います。

ぼくの愛情診断

夫婦喧嘩の三つのルールがおもしろい。
こういうことは、昔はお姑さんからお嫁さんに伝わったのでしょうか。

父親とは一体何だろう。
これについて、来るべきマイホームが崩れる日のことをあげて説明されています。
わたしは女性かつ独身なので、親の孤独についてまだそれほど真剣に考えていなかったのですが、孤独に対しての準備はできることだから、この本はやはり結婚後の夫婦にとっても大事なことが書かれています。

まじめな話ばかりだけでなく、「子供に席をゆずらぬ会」のようにユーモアもある「大人」の目線がとても暖かい。
文章から暖かさを感じられることはそうそうなく、できれば書籍で手にとってほしいです。
大切な誰かに貸すことができるから。

解説:江國香織

愛情セミナーについて、大人っぽいなあと解説されています。
「わたしのような未熟者は、たまに少しものを考えると、決まってそれを追いつめてしまう。追いつめて、絶望して、安心したくなってしまう。追いつめるのは、たぶん子供のすることなのだ」
「この本の空気の懐かしさの正体は、大人っぽさかもしれない。最近めっきり見かけなくなった、大人の、大人っぽさ。」

たしかにこの本を読んでみて、わたしも自分の子供っぽさに穴があったら入りたくなったのと同時に、はて、「こういう大人になりたい」と思えるような“大人らしい大人”がいたかなと思ったのです。
職場の上司なんかは、思いの外子供っぽかった。
みな「大人らしく振る舞っている」だけなんだなあと。
ほんとの大人は大人らしく振る舞ったりしないのでしょう。

愛情セミナー [ 遠藤周作 ]

価格:453円
(2014/11/8 23:30時点)