の②の続きです

木型と現状の乖離

古瀬先生が使われているテキストは、システムルナティーというイタリアのテキストです。
20年前の授業ではテキストにある数値でそのまま靴をつくっても、学生さんには履けないぐらい細い。
当時の日本人用に計算し直して作っていたのが、近年の学生さんはテキストの数値修正不要でそのまま履けるそうです。
それぐらい足形は変わっているのに、いまの日本の売り場にある靴の木型はおそらく30年以上前の物じゃないかな。
量産しやすい形に変形しているともいえます。
新しいブランドだからって、きちんと木型を起こしているとは限りません。

木型にも寿命がありまして、木製木型は材質的に傷みが激しくなる。
現在はプラ製木型がコストや耐久性の面でも一般的なのですが、以前のレポートでも書いたとおり、生物X生物(木材X革)のほうが当然なじみが良いのです。
どっちを選んでも、一長一短ですね。

そしてあしの変化に合わせて木型も変えないとフィッティングが合わないのに、現状と乖離した靴が量産され続けることに。
いまの日本の売り場はこういうことです。

型紙04
できた!
型紙05
あしの部分だけ木型が入った状態ですが、ヒールをつけるとちゃんと自立します。
型紙06
コピー用紙なのよ。

初めて靴の製造の一部を見たのですが、とてもおもしろかったです。
なんせ立体なのと、製靴はテキストで読んでもなかなか頭に入ってきません。
製靴技術を紹介しているサイトはもちろん知っていますし、ブックマークもしてあるけれど、専門用語も多く読む気になれないのですよ…
習うより前にまず見ることのほうが、わたしにはよい学習法だと思います。

靴って不思議な発明品。
メイキングを見ると、ものの見方が変わりますね~
朝から夜までお勉強するのはいっぱいいっぱいだから、わたしは型紙講座二つまでにしました。
このあとの講座もおもしろそうだった…

職人に必要な感性

古瀬先生はお父様が靴職人でした。
作業場に来る御用聞きの女性や、おばちゃんたちの足をぐっと握ってその感覚のみで木型を起こしていたそうです。
レベルが違いすぎます。
昔の職人さんは学校卒業するよりも先に10代そこそこで弟子入りして、ひたすら製作。
手が早く腕が良いとそれだけ収入も増える時代でした。

先生ご自身も、靴職人を目指すのなら高校卒業後より中卒で始めてほしいと言ってます。
お父様は海辺で少年時代を過ごされ、まち育ちの人とは感性がまったく違ったそうです。
そんな方の作る靴は、さぞかし美しかったことでしょう。

こういう職人の感性は、環境に育まれる。
生まれつきおうちで一級品を見て、囲まれて育った人と、成長してから必死で美しいものを見て知った人とでは、やっぱり歴然と差があるのです。
よい音楽のない環境で、音楽家が輩出されないのと同じ。

古瀬先生のお話はとてもおもしろかったです。
広く深くたくさんの知識を持たれていて、ほんとに惜しみなく提供してくださる。
ここにUPできないこともたくさん教えて下さいました。

わたしは合う靴を求めて靴のことを独学で調べ始め、じわじわと勉強会や業界の方とのご縁が増えてきました。
その上で言いますが、靴の世界って狭くて暗いなとつくづく思います。

1.不快(あわない大半の靴)
2.高い
3.ない

こんなにものがたくさんある国で、「ない」ってどういうこと。
ファッション的な空疎な明るさではなく、もっと楽しい明るさが足下になければ、なにやっても楽しくなーい!

先生のように先代が靴職人という方も多いです。
そのせいか、【技術の高さ・知識量=プライドの高さ】 という方も結構見受けるんですよ。
直接お会いしていなくても、WEBのテキストを見たらすべて伝わってくる。
姿写真がなくったって、テキストはその人を率直に現す鏡です。
わたしはそうやって、消費者の立場でWEBとリアルの世界を見続けています。

古瀬先生は、ほんとにテキストの印象通りの方でしたよ(^-^)
お会いできてよかったです。
ありがとうございました。

つづきに蛇足として、靴業界への私見を。